アングロサクソン人のブリテン島移動~Englishの語源由来~

変化が起きたのは、5世紀半ばです。ゲルマン人のブリテン島への大移動が起こります。ゲルマンとは、ヨーロッパ北方に住んでいた人々の総称で、現在のノルウェー人、スウェーデン人、デンマーク人、ドイツ人、オランダ人の祖先にあたります。さらに、ドイツ北やデンマーク南部など、ゲルマン語を話す民族の中でも、比較的、西寄り位置していた庶民族の中に、アングル人、サクソン人、ジュート人が居ました。彼らこそが、原初の英語を母語としており、後にアングロ・サクソン人と総称される民族です。西暦449年、彼らはケルト語派に属するブリトン人の居住していたブリテン島に目を付け、現在のドイツ北方、デンマークの大半を占めるユトランド半島から海を渡り、ブリテン島に侵入してきます。ユトランド(Jutland)という地名は「ジュートの土地」という意味だそうです。

この449年をもって、「英語の歴史の始まり」と英語史では、定義されています。ちなみに、日本ではこの時期、大阪の堺市に、仁徳天皇のお墓「大仙陵古墳」が築かれているだとか。
英語史では、大きく3つの時期に分けており、449年から1100年頃までを「古英語」、1500年頃までを「中英語」、それ以降は「近代英語」へとつながっていきます。
古英語 | 449年~1100年 |
中英語 | 1100年~1500年 |
近代英語 | 1500年~1900年 |
現代英語 | 1900年~ |
こうして、600年頃になると、ケルト系民族は北部と西部(現在のスコットランド、ウェールズ、アイルランド)への追いやられ、ブリテン島の大部分は、英語を母語とするアングロ・サクソン人が居住し支配する土地となり、同化させていきました。ちなみに、「アングル人の土地」(Engla land)が転じて「イングランド」(England)と呼び、Englishも「アングル人の言葉」という意味です。
古英語と現代英語の違い
ブリトン島を征服したゲルマン民族の言語であった古英語は、ドイツ語の1つの方言と捉えられています。そのため現在のドイツ語と似ている部分が多くありました。
①名詞の性
・ドイツ語の名詞には男性・女性・中性と3つの性が割り当てられているのですが、それは古英語も同様でした。
現在の英語には無い概念ですし、ましてや、日本語にも存在しないので、想像するのが難しいかもしれません。
例えば、名残をいうと、「彼」はheで、「彼女」はsheと使い分けます。
②語形変化
・古英語では、名詞・形容詞・動詞は文章の中で、果たす役割によって語形変化しました。
例えば、現代英語でも、三人称単数の主語を用いて現在の時制を表す英文には、動詞に”s”を付けますが、これは古 英語の名残なのです。
さらにいうと、「三人称単数」に限らず、Iでもweでもyouでも何かしら語尾が付いていたのですが、古英語が長い年月をかけて変化するなかで、発音がしやすくて語形変化が単純な “s” が結果的に残ったというわけです。
古英語の時代から現代の英語まで残されている語形変化は、3単元のs・過去時制の-ed・過去分詞の-en・現在分詞の-ing・比較級の-er・最上級の-est・複数形のs・所有の-‘sの8つのみと指摘されています。
③定冠詞
定冠詞も古英語では複雑でした。現代英語の定冠詞は the だけですが、古英語では名詞の性や文中での役割、単数か複数によっても変化するため、18ほどの定冠詞がありました。ちなみにドイツ語の定冠詞は16です。
④不規則動詞
不規則動詞が多いことも古英語の特徴です。現代英語では語尾に-edをつけることで規則変化する動詞が大多数ですが、古英語では write-wrote-written のように不規則に変化する動詞が多かったのです。
このように、古英語における語形変化の複雑さは、現代英語をはるかに上回り、そのgapから英語圏の人が古英語で書かれた文を見ても、さっぱりわからないと言われます。
それでもボキャブラリーを見てみると、誰もが知っているような単語の多くは古英語にすでに含まれていて、例えば、make,do,have,hold,brig,open,get,homeなどです。中学英語を理解していれば日常会話をこなせると言われるのはこのためです。
上記の内容は下記サイトでも詳しく書かれていますので参考にしてみてください。
https://www.qqeng.com/blog2/study/english-history3.html
バイキング襲来
その後、7世紀にはそれぞれの部族が主体となって、ブリテン島に7つの王国が成立しました。これを七王国(①エセックス②サセックス③ウェセックス④イースト=アングリア⑤マーシア⑥ノーサンブリア⑦ケント)と言います。

サクソン人:ブリテン島南部に定着。
①エセックス②サセックス③ウェセックスの三王国を建国。
アングル人:イングランド北部からスコットランド低地地方に定着。
④イースト=アングリア⑤マーシア⑥ノーサンブリアの三王国を建国。
ジュート人:南東部のケント地方に定住。⑦ケント王国を建国。
ただし、この七国の国境は一定しておらず、勢力範囲は流動的であったようです。七国の中では、①エセックス②サセックス⑦ケントは早くに衰え、ノーサンブリア・マーシア・ウェセックスの三国が、激しく抗争しあいながら順次覇権を握っていきました。と同時に、8世紀から11世紀にかけては外的勢力からの脅威にもさらされていて、それがデーン人(デンマークあたりに住んでいた人)による海賊行為です。いわゆるバイキングですね。バイキングからの侵攻により、ブリテン島が征服されそうになりますが、南西部のウェセックスを支配していたアルフレッド大王がかろうじて持ちこたえ、デーン人たちと和解協議に至り、北東の約3分の2はデーン人に住み分けすることを認めました。そのエリアはデーン人の法の支配下におかれ、デーンロー(Danelaw)と呼ばれるようになりました。その後、通商等の交流がデーン人とアングロサクソン人(ゲルマン人)との間で起こり、デーン人は次第にゲルマン人に同化していきます。

デーン人が話していたのは同じくゲルマン語族に属する古ノルド語(古北欧語)で、デンマーク語・アイスランド語・ノルウェー語・スウェーデン語といった現代の北欧諸語の祖先にあたる言語です。また、古英語も同じゲルマン語由来の西ゲルマン語の1つです。西ゲルマン語の古英語と古ノルド語は方言の違いの差程度はあるものの、類似性は高いものでした。このため、古ノルド語の影響はごく自然に英語の中に浸透していったと考えられます。sky,skin,skirtなど頭にsk-のつく語は古ノルド語由来の言葉で、giveやgetも同様です。また、三人称代名詞であるthey,their,themなど、頻繁に使われる文法的な語も古ノルド語から英語に流入したものです。このことから、デーン人とゲルマン人の日常的な交流が頻繁に行われていたことが伺えますね。
以下の動画は、バイキングのイギリス侵攻にまつわる内容が描かれており、言葉の融合の点にも触れているので、とても分かりやすいです。参考にしてみてください。
古英語にしても古ノルド語にしても方言の差でしかないため、互いの言っていることは理解できたようです。しかし、語尾が異なるため、微妙なニュアンスになると誤解が生じ、しばしばトラブルの種になりました。そこで、誤解が起きないように互いに複雑な語尾は削ぎ落としてしまおう、といった動きが起きたのです。こうして古英語独特の複雑な語尾変化は大量に削られ、規則的で簡単なものへと大きく変化しました。古英語が現代英語へ一歩近づいたことになります。

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